せんせい!
まるで日常系アニメのようなタイトルだが※1
今日はせんせいについて。
一口に先生といっても様々な分野で「先生」と呼ばれる人が居ると思う。
誰しもが人生において関わるであろう学校の「先生」の他にも
政治家「先生」
弁護士「先生」
病院の「先生」
小説家や漫画家も「先生」と呼ばれている印象だし
時代劇など観ていても「先生!やっちまってくだせぇ!」などと耳にするし
僕の大好きなゲゲゲの鬼太郎などを観ていても
ネズミ男なるキャラクターが強い妖怪に媚びを売るときに「せーんせっ!」などと言っている。
※右がネズミ男。中々辛辣な事を言われている。せめて寝っ転がってないで目を見て言ってやってもらいところ。
つまり立場の極めて高い人物が呼ばれるケースが多い。それが僕の思う「先生」である。
これだけ書くと日々をぽかんぽかんと呑気に過ごしている僕が「先生」などと呼ばれる日は
到底来ないのではないかと思うのだが
実をかくそう一度あるのだ。
正しくは3ヶ月間だけ週に3日間「先生」と呼ばれていたのだ。
当時、僕は大学3年でバンドや弾き語りなどでライブを頻繁にやっていた。
お客さんはまぁまぁ多かったり少なかったり
と、まばらではあったが学生ならではの「お友達パワー」でそこそこ客足は途絶えなかった。
そして、ある日そのライブをみていた女性(多分60代ぐらい)に声をかけられた。
「ねぇ、良かったらうちの店でギター弾かない?バイト代出すから〜」たしかこんな感じだった。
自分で言うのもなんだけれどギターも歌も到底お店で披露してギャラを貰えるレベルではなかったと思うし「そういうのが向いている」タイプの声でも無かったのにである。
それでも学生であった僕は二つ返事で了承した。ギャラが良かったからだ。
学生で生活費を全て自分で調達する必要のあった頃に時給2千円である(!)
これは引き受けないわけにはいかない。
それに僕を見て聞いて自分の所で弾かせたいと思わせる店に興味があったからだ。
結論から言うと大変だった。
初日は忘れもしない雨の日だった。
僕はギターケースが濡れないように気をつけて行った。
言われた通りの場所に着くとスナックのたくさん入ったビルの地下。扉の前から聞こえてくるのは飲み屋ならではのガヤガヤした声。
そしてカラオケ。吉幾三だ。
「おらこんな村いやだぁ〜!」などと歌っている。※2
冗談じゃない。
悪い夢でも見ているようだった。
酒酔いのおじ様達の前でギターを弾いてお金をもらうだなんて僕に到底務まるようなものじゃない。そもそもジャンルが違いすぎる。
そう思ったのだが前金で幾らかもらっていて
その殆どを食費などに使ってしまっていた僕は恐る恐る魔の扉を開けたのだった。
化粧をバッチリ決め込んだ件の女性は
さながら「マダム」と言った感じで
「あらっ!来たのね!」などと言うものだからお客さんはみんなして(誰だこいつ?)といった目で見ている。
僕は「えへへ。」ってな感じで店の中へ入っていった。
スナックはいかにもスナックで薄暗く少し狭い。タバコの煙がもうもうしていた。
マダムは手慣れた感じで僕にウィスキーの水割りを作って飲ませてくれた。味はわからなかったけど緊張は少しほぐれた。
一息ついた所で「先生」とマダムが言った。
僕は(学校の先生でもいるのかな?)と思って出された水割りを健気に飲んでいた。
「ねぇ!先生!ギター弾いてくださらない?」なんと先生とは僕のことである。
僕はびっくりして「先生だなんてそんな・・・」なんて言っても聞く耳を持たない。
きりがないので僕はケースを開けてギターのチューニングをやっていた。
その時にである。おそらく常連であろうジャージを着たお爺さんが「俺は歌が歌いたい!」などと始めたのだった。
マダムはギター弾いてもらうの!ギャラ出してるの!といきなり好戦的だしジャージグランパも「幾三!」などとやっぱり好戦的。
結果、間を取って僕に吉幾三の曲をギターで弾いてもらいジャージグランパが歌うという
まさかのコラボ提案がなされた。
僕も断るわけにはいかずたどたどしくもコードを調べて弾いたのだった。
はっきり言ってウケた。めちゃくちゃ盛り上がったのである。俺もこれ弾いてくれ!
次は俺!私も聖子ちゃんいいかしら?
などと始まった。美空ひばりも!一番声がでかかったのはマダムであった。マダム。
そんなわけでスナックイン僕の夏フェス!〜水割りを添えて〜開催である。
それからというものインスト、もしくはムードのある曲をという話のはずがお客さんの歌いたい歌をギターで弾くいわゆる「流し」のようなものになってしまった。
週に3回の約束だったので休みの日にお客さんの歌のレパートリーを聞いておいて弾けるようにする。というのが日課になった。
しかしどんなにものにでも始まりがあれば
終わりもあるのである。
それは、ある日突然の事だった。
僕がいつものようにギターを持ってお店に行くとジャージグランパがご自慢のアディダスのジャージではなく革ジャンを着ているのである。
どことなく髪もセットしていて「バリバリ」って感じだった。
ジャージグランパ改め遅咲きの革ジャングランパ(長いので革グラと呼ぶ)曰く生ギターで歌っているうちに目覚めた。俺もギターを弾くぞ!との事。
まるで親戚のお兄ちゃんの勧めで聞いた洋楽にハマった中学生である。
それからというものギターを持ってきては
ろくに弾けもしないのに他のお客さんに絡んで聞かせるというはた迷惑な老人と化してしまった。
これでは営業に差し支えるとの事で僕は解雇。
あっけないものである。
仕事でなければ普段スナックには行かないし足は遠のいていたのだが最近気になって通りかかった時にのぞいたらお店は無くなっていた。
夏の日差しから秋のキンモクセイが香る今頃の時期だったなぁ。なんて感傷に浸りながら今日はここまで。
そういや、革グラおじいちゃん上は革ジャンだったけど下はジャージのままだったな。
※1一時期ひらがな4文字のタイトルのアニメや漫画が流行った。(今もかもしれないけれど)
画像は大ヒットしたアニメ「けいおん!」
作中で主人公の使っていたギター(ギブソン社のレスポール!こうきゅう!)と同モデルが飛ぶように売れたと聞く。
調べてみると他にも「ゆるゆり」や「のうりん」更には「ばくおん!」というものまであるらしい。個人的には「とんずら!」ってタイトルがいいと思う。誰か描いてはくれないだろうか。
※2 おらこんな村いやだぁ 〜の歌のジャケット。正しいタイトルは「俺ら東京さ行ぐだ」
鍬で畑を耕す姿が中々上機嫌な様に見えるではないか。
多分この人はこの村でいいと思う。
今日のおすすめはタイトルの「せんせい!」になぞらえて
「ぼくの好きな先生」が収録されている大名盤に4曲も収録曲を足したもの。
同じく収録されている「シュー」という曲を聴いたときの衝撃を僕はいまだに忘れられない。